なぜ人間は、自分で選んだつもりなのに、選ばされてしまうのか?『予想どおりに不合理』
お得な商品を選んだはずなのに……

「一番安いのは機能が少ないし、一番高いのはもったいないな……」
ネット通販で、3つの料金プランを比較する男性。
しばらく悩んだ末、真ん中のプランを選びました。
「よし! これが一番お得だ!」
ところが、1か月後。
「……あれ? この機能、ほとんど使ってないぞ?」
結局、一番安いプランで十分だったようです。
僕たちは、損をしないために商品を比較します。
しかし、その比較こそが、判断を狂わせることがあるのです。
実際に、それを示す奇妙な実験があります。
※本記事は書籍や関連研究をもとに、筆者の感想や解釈を交えて制作しています。会話や場面には創作が含まれ、実験結果もすべての人に当てはまるものではありません。詳しくは実際の書籍をご確認ください。
誰も選ばない商品が、売れ筋を変えた

行動経済学者ダン・アリエリー氏は、MITの学生100人に、雑誌『エコノミスト』の購読プランを選んでもらいました。
「この3つなら、どれを選びますか?」
| プラン | 年間料金 |
|---|---|
| A:Web版 | 59ドル |
| B:紙版 | 125ドル |
| C:紙版+Web版 | 125ドル |
学生「BとCが同じ値段? だったらCのほうがお得じゃないですか!」
結果は、こうなりました。
最初の実験:学生100人
A:Web版
16人
B:紙版
0人
C:紙版+Web版
84人
紙版だけを選んだ人は、なんと0人。
そこで、研究者はBを削除し、別の100人に選んでもらいました。
すると……。
Bを削除した実験:別の学生100人
A:Web版
68人
C:紙版+Web版
32人
「えっ!? 人気が逆転してる!」
値段も商品の中身も変わっていません。
誰も選ばなかったBを消しただけで、選ばれる商品が変わってしまったのです。
人間は、商品ではなく比較相手を見ている

「でも、どうしてBを消しただけで結果が変わったんですか?」
答えは、比較のしやすさにあります。
紙版が125ドル。
紙版+Web版も125ドル。
この2つを比べれば、後者がお得なのは明らかです。
ところが、紙版だけのプランが消えると……。
「Web版が59ドルなら、紙の雑誌はいらないかな?」
今度は、自分に必要な内容を考えるようになります。
これが「おとり効果」と呼ばれる現象です。
人間は、商品の価値を判断しているつもりでも、比較相手によって評価を変えてしまうことがあります。
つまり、誰も買わない商品にも、ほかの商品を魅力的に見せる役割があるのです。
なぜ人間は、無料という言葉に弱いのか?

人間の不合理な行動は、これだけではありません。
例えば、チョコレートを使った実験。
研究者は、2種類のチョコレートを用意しました。
- 高級チョコレート:15セント
- 普通のチョコレート:1セント
男性「14セントしか違わないなら、高級なほうを食べたいな!」
実際に、チョコレートを選んだ人の約73%が高級なほうを選びました。
ところが、両方を1セントずつ値下げすると……。
- 高級チョコレート:14セント
- 普通のチョコレート:無料!
男性「えっ!? タダなら普通のほうにしよう!」
すると、普通のチョコレートを選ぶ人の割合が、27%から69%に増えたのです。
価格差は14セントのまま。
それなのに、人気が逆転してしまいました。
人間にとって「無料」は、単に安いというだけではない、特別な魅力を持っているようです。
なぜ人間は、選択肢を失いたくないのか?

もう一つ、面白い実験があります。
研究者は、画面に3つの扉があるゲームを用意しました。
扉を選んで部屋に入り、クリックするとお金を稼げます。
男性「よし! この部屋が一番稼げるぞ!」
ところが、このゲームには奇妙な仕掛けがありました。
使っていない扉は、少しずつ小さくなって消えてしまうのです。
男性「あっ! あっちの扉が消えちゃう!」
慌てて別の部屋へ移動します。
男性「よかった! これで扉を残せるぞ!」
しかし、扉を守るために移動を繰り返した結果、稼げるお金が減ってしまいました。
男性「……あれ? 扉は守れたのに、損してる?」
実際の研究でも、参加者は選択肢を残すために、余計なコストをかける傾向がありました。
選択肢を失わないために行動した結果、かえって損をしてしまったのです。
これは、使っていないサービスを「いつか使うかもしれない」と解約できない心理にも似ています。
最後に

人間は、賢く選ぼうとして迷子になる
さて、最初に登場した男性。
今日もネット通販で買い物をしています。
男性「もう失敗しないぞ! 今度こそ、しっかり比較して決めるんだ!」
値段を調べ、機能を比べ、レビューを確認。
そして、ようやく商品を決めました。
男性「よし! これが一番お得だ!」
ところが、購入直前。
画面に新しい案内が表示されます。
「今だけ、もう一つ無料!」
男性「……えっ? 無料?」
思わず手が止まります。
男性「でも、ほかの商品も比較したほうがいいかな……」
こうして、また比較が始まりました。
僕たちは、損をしないために商品を比較します。
しかし、比較相手によって評価が変わり、無料という言葉に心を動かされ、選択肢を失うことを恐れます。
自分で賢く選んでいるつもりでも、実際には目の前の選択肢に振り回されてしまうことがあるのです。
そして、30分後。
すっかり疲れた男性が、画面を見つめてつぶやきました。
「……ところで、俺は何を買おうとしてたんだっけ?」
