高機能なのに売れないのはなぜ?――人は商品ではなく「その先」を買っている『付加価値のつくりかた』
「こんなに良い商品なのに、なぜ売れない?」

家電を買いに行ったとします。
店員さんが、自信満々に説明してくれます。
「こちらの最新モデルは、従来品より性能が20%アップしています」
「へえ」
「新しい機能も5つ追加されました」
「なるほど」
「さらに素材も改良されています」
「すごいですね」
一通り説明を聞いたところで、値札を見る。
そして心の中で思います。
「……で、僕に何の得があるんだろう?」
商品を作った側からすると、不思議かもしれません。
前より高性能。
新機能も追加。
開発にも時間をかけた。
どう考えても「良い商品」になっている。
それなのに、お客さんは思ったほど喜んでくれない。

場合によっては、
「前のモデルで十分かな」
と言って帰ってしまいます。
その理由を考えるうえでヒントになるのが、田尻望さんの『付加価値のつくりかた』です。
この本を読んでいると、
「良い商品を作れば、価値が上がる」
という、なんとなく当たり前に思っていた考え方が少し怪しく見えてきます。
なぜなら、
作る側が価値だと思っているものと、買う側が価値だと思っているものは、同じとは限らないからです。
※本記事は、書籍の内容をもとに筆者の個人的な感想や解釈を交えて紹介しています。詳しい内容については実際の書籍をご確認ください。
お客さんは「機能」を買っているわけではない

本書の中で繰り返し出てくるのが、
「その商品によって、お客様に何が起きるのか?」
という考え方です。
たとえば掃除機。
メーカーが言います。
「吸引力がさらに強くなりました!」
これは商品の特長です。
でも買う側からすると、
「それで?」
となるかもしれません。
そこで一歩進める。
「今まで10分かかっていた掃除が、5分で済みます」
これなら少し分かりやすい。
さらに進めると、
「朝の5分に余裕ができます」
となります。
ここまで来ると、話が掃除機から離れてきます。

お客さんが欲しかったのは、
「吸引力が強い機械」
ではなく、
「朝、少し余裕のある生活」
だったのかもしれません。
本書には、これをよく表したシャンプーの話があります。
ある日用品メーカーの担当者が、実際の売り場でお客さんを観察していました。
すると、一人の女性がシャンプーを手に取ります。
ターゲットとして想定している年代にも合っている。

担当者としては、
「これは買ってくれそうだ」
そう期待できる状況でした。
ところが女性は、
商品を棚へ戻しました。
「なぜだろう?」
理由を聞いてみます。
その商品では、
「健康な地肌」
が魅力として打ち出されていました。
ところが女性が気にしていたのは、
髪のつや。
つまり、
メーカー側は、
「地肌にいい商品ですよ」
と言っている。

お客さんは、
「私は髪をきれいにしたいんだけど…」
と思っている。
どちらも間違ってはいません。
ただ、
話が噛み合っていない。
メーカーは一生懸命、価値を作ったつもりだった。
でも、その価値を欲しい人が目の前にいなければ、
どれだけ素晴らしい機能でも、
どれだけ優れた商品でも、魅力としては伝わりません。
付加価値というと、
「何かを足すこと」
のように聞こえます。
新しい機能。
高級な素材。
便利なサービス。
でも本書を読むと、少し違って見えてきます。
大事なのは、
「何を足したか?」
ではなく、
「それによって相手の何が変わるのか?」
なのです。
「同じ旅行なのに、なぜ払える金額が変わる?」

たとえば、
「週末、ちょっと気分転換に旅行へ行こう」
となったとします。
すると、
「ホテルは寝られればいいかな」
「移動も安い便で十分」
となりやすい。
できれば安く済ませたい。
ところが、これが、
「両親の結婚記念日に家族旅行をプレゼントしよう」
だったらどうでしょう?
急に話が変わります。
「せっかくだから、少しいいホテルにしよう」
「食事もちゃんとしたところを予約したいな」
さっきまで、
「ホテルに2万円は高いな」
と言っていた人が、
今度は、
「一生に何度もあることじゃないし」
と言い始める。

不思議なのは、旅行そのものが急に別の商品になったわけではないことです。
ホテルに泊まる。
食事をする。
観光する。
やっていることは、それほど変わりません。
変わったのは、
「何のために行くのか?」
です。
ただ休みたい旅行なら、
「安く済ませたい」
でも、
「家族に思い出を残したい」
となれば、同じ1万円でも感じ方が変わる。
つまり価値は、商品についている値札だけでは決まらないのです。
その商品が、自分にとってどんな意味を持つのか。
そこまで含めて、
「高い」
「安い」
を判断しているわけです。
最後に

売り場には、今日もたくさんの商品が並んでいます。
「もっと便利に」
「もっと快適に」
「もっとあなたらしく」
どれも、少し魅力的に見えます。
でも不思議なのは、
商品を買った瞬間より、
「これを買えば、少し生活が良くなるかもしれない」
と考えている時間のほうが、楽しかったりすることです。
旅行も同じです。
ただ泊まるだけなら安いホテルでいい。
でも、
「家族の思い出になる」
と思った途端、
少し高い部屋にも理由が生まれる。
値段は同じでも、
そこに乗せる意味は、人によって変わります。
だから企業は、
商品だけを売ろうとはしません。

その先にある、
「こんな生活になりますよ」
まで見せようとする。
そして僕たちは、
「なるほど、それなら欲しい」
と財布を開きます。
もしかすると付加価値とは、
商品に何かを足す技術というより、
その商品を持ったあとの景色を、先に見せる技術なのかもしれません。
ただし、その景色が本当に待っているかどうかは、
買ってみるまで分かりません。
売り場では今日も、
商品と一緒に、
まだ起きてもいない未来まで、きれいに包装されています。
