気になる一冊
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『両立思考』──人生で何度も同じ悩みが戻ってくるのは、答えではなく「質問」が間違っているのかもしれない

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「仕事と家庭、どっちが大事?」

夜。

仕事を終えて時計を見る。

「……もうこんな時間か」

今日も帰宅は遅くなった。

最近、家族とゆっくり話した記憶もない。

「さすがに仕事ばかりはマズいな」

そこで決める。

「よし。これからは家族との時間を優先しよう」

数日後。

今度は机の上に仕事が積み上がっている。

「……全然終わらん」

残業を減らしたぶん、仕事はきれいに残っていた。

「やっぱり仕事もしないとな……」

しばらく仕事を優先する。

すると今度は、

「最近、家にいても仕事してない?」

と言われる。

「ですよね……」

また家族を優先する。

仕事がたまる。

また仕事を優先する。

家族との時間が減る。

「あれ?」

僕たちは、こんなことを意外と何度も繰り返しています。

仕事か?
家庭か?

貯金するか?
今を楽しむか?

自分の意見を通すか?
相手に合わせるか?

健康のために我慢するか?
好きなものを食べるか?

悩んだ末に、

「こっちだ!」

と決める。

その瞬間は少しスッキリします。

ところが、しばらくすると捨てたはずのもう片方が顔を出してくる。

「やあ」

「お前、さっき捨てただろ」

そんな厄介な悩みについて扱った本が、ウェンディ・スミス氏、マリアンヌ・ルイス氏の『両立思考』です。

この本が注目するのは、僕たちが最後に選んだ答えだけではありません。

その前にある、

「そもそも、どちらかを選ばなければならないの?」

という部分です。

※本記事は、書籍の内容をもとに筆者の個人的な感想や解釈を交えて紹介しています。詳しい内容については実際の書籍をご確認ください。

「どちらかを選べ」が罠になる

たとえば会社で、こんな会議があったとします。

「今期の利益を優先しましょう」

「いや、新商品の開発に投資すべきです」

「そんなことをしたら利益が落ちるだろ」

「投資しなければ来年の商品がなくなります」

どちらも間違っていません。

利益がなければ会社は続かない。

でも、未来への投資をやめても会社は続かない。

そこで、

「じゃあ、どっちなんだ」

と迷って決断できなくなります。

ところが『両立思考』では、こうした関係を簡単に片づけません。

利益と未来。

仕事と家庭。

安定と変化。

こうしたものには、

矛盾しているのに、両方必要

という組み合わせがあります。

片方を完全に捨てられないから、何度決めても問題が戻ってくる。

そこで著者たちが使う比喩の一つが、

綱渡り

です。

綱の上に立つ人を想像してください。

右へ傾いた。

「危ない!」

左へ体重を移す。

すると今度は左へ傾く。

「こっちも危ない!」

また右へ戻す。

では、

「右と左、どちらが正解ですか?」

と聞いたらどうでしょう。

たぶん綱渡りをしている人は困ります。

「いや、両方上手くバランスがとれないと落ちるんだけど…」

となるはずです。

両立も同じです。

いつでも50対50にする必要はありません。

忙しい時期なら仕事を多めにする。

落ち着いたら家族との時間を増やす。

貯金を優先する月もあれば、

旅行に使う月もある。

重要なのは、

一度決めた側に居座らないこと。

右。

左。

また右。

状況を見ながら体重を移していく。

著者たちは、こうした考え方を

「一貫して、一貫しない」

という少し変わった言葉でも表現しています。

一度出した答えを守り抜くのではなく、

両方を残しながら調整し続ける。

それが『両立思考』です。

同じことで何度も悩むなら、答えを変える前に

では、これを日常でどう使えばいいのか?

難しいことをする必要はありません。

同じ悩みが何度も戻ってきたとき、

一度だけ質問を変えてみます。

たとえば、

「仕事と家庭、どちらを優先する?」

ではなく、

「仕事も家庭も捨てないなら、今週はどう配分する?」

貯金なら、

「貯金するか、遊ぶか?」

ではなく、

「将来のお金を守りながら、今月はいくらまで楽しむ?」

人間関係なら、

「自分が我慢するか、相手に我慢させるか?」

ではなく、

「自分の希望を伝えながら、相手の希望も残せないか?」

こうすると、

突然すべてが丸く収まるわけではありません。

仕事も家庭も完璧。

貯金もできて毎日豪遊。

自分も相手も一切不満なし。

そんな魔法のような方法を教える本ではありません。

むしろ逆です。

「多少モヤモヤしたままでもいい」

と考えます。

僕たちは迷っていると、

早く答えを出したくなります。

「もう決めた!」

と言えば気持ちは楽になる。

ところが問題によっては、

そのスッキリ感こそが危ない。

本当は両方必要なのに、

無理やり片方を切り捨てただけかもしれないからです。

だから、何度も同じ場所へ戻ってきたら、

「また判断を間違えた」

と考える前に、

「この問題、本当に二択だったっけ?」

と疑ってみる。

それだけでも、見え方はかなり変わります。

最後に

数年後。

男はまた机で悩んでいました。

「仕事を優先するか、家族との時間を増やすか……」

考えながら引き出しを開けると、昔使っていたノートが出てきます。

何気なく最初の方を開いてみる。

そこには、

「今年は仕事にもっと集中する」

と書いてありました。

ページをめくる。

「家族との時間を増やす」

もう一枚めくる。

「仕事をもっと頑張る」

さらにめくる。

「休日は家族と過ごす」

ページをめくる手が止まります。

「……俺、ずっと同じことで悩んでない?」

仕事か家庭か。

貯金か楽しみか。

自分の意見を通すか、相手に合わせるか。

人生には、一度答えを出したくらいでは終わってくれない悩みがあります。

そのたびに僕たちは、

「今度こそ正しい方を選ぼう」

と考える。

けれど、何度選んでも同じ場所に戻ってくるなら、

そろそろ答えではなく、

質問の方を変えたほうがいいのかもしれません。

男はノートの新しいページを開きます。

そして、こう書きました。

「仕事も家庭も大事にするには、どうすればいい?」

たぶん、この悩みはまた戻ってきます。

でも次は、

どちらかを捨てるところから始めなくてよさそうです。

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