あなたの脳は本当に「大丈夫」?『ネット・バカ』が突きつける、スマホ時代のこわい現実
はじめに

気がついたら、寝る前の「5分だけSNSチェック」が1時間コースになっていませんか?
YouTubeを開いたら最後、「おすすめ動画」のコンボで気づけば午前2時。
そして翌朝、
「時間どこ行った?」
とスマホを睨みつける
──おそらく、この記事を読んでいるあなたも心当たりがあるはずです。(僕もです、安心してください仲間です)

そんな“なんとなくヤバい気はしてるけど、まあみんなそうだし…”という現代人のモヤモヤを、真正面からブッ刺してくる本があります。
ニコラス・G・カー『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』
原題は The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains。
ピューリッツァー賞の最終候補にもなった、わりとガチな一冊です。

タイトルだけ見ると
「ネットする人はバカです」
と言われている気がしてイラッとしますが(笑)、中身はかなり真面目。
インターネットが私たちの脳の構造そのものを変えているかもしれない、という話なんです。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
「大人の脳も、まだ書き換え可能です」という衝撃

著者が出発点にしているキーワードが、脳の可塑性(かそせい)。
ざっくり言うと、
「大人になっても、脳は使い方しだいで配線が組み替わるよ」
という性質のことです。
筋トレをすれば筋肉がつくように、
・どんなメディアを
・どのくらいの時間
・どんなふうに使うか
によって、脳の“クセ”=神経回路も変わっていく、というわけですね。
ここで著者が問題にするのが、「インターネット使用がデフォルトの生活」
SNS、ニュースアプリ、LINE、検索、動画…。
1日に何十回もスマホを触る生活を続けると、脳は
「深くじっくり考えるモード」より
「速く、浅く、次々切り替えるモード」
に最適化されてしまうんじゃないか? と警鐘を鳴らしているのです。
思考は「浅瀬(シャロウ)」に押し戻されている?

原題にある The Shallows は「浅瀬」という意味。
著者は、
昔は言葉の海にもぐる“スクーバダイバー”だったのに、
今は水面をジェットスキーでビュンビュン走り回っているだけだ
という比喩を使います。
SNSのタイムライン、ニュースの見出し、通知、ハイパーリンク、ショート動画…。
どれも一瞬で理解できて、一瞬で忘れていく情報ばかり。
その結果、
- 本をじっくり読むのがつらい
- 長文を見るだけで「あ、あとで読もう」とタブ墓場行き
- 集中しようとしても、ついスマホを手に取ってしまう
という“浅読み人間”になっていないか? と問いかけてくるわけです。
正直、このあたりを読んでいて
「すみません、それ私です」
と心の中で土下座しました。
「グーグルに聞けばいいや病」と記憶力の関係

本書でもうひとつ面白いのが、検索エンジンと記憶の話。
わからないことがあったら、とりあえずググる。
これはもはや人類の基本動作ですが、著者はここにも落とし穴を見ています。
それは、
「どうせ後で検索できるし」
→ だから今、ちゃんと覚えなくていいや
という無意識のサボりが、脳の中で起きているかもしれない、という指摘です。
たとえるなら、こんな話。👇
Aくん「またこの街か〜。えーと、目的地は…まぁナビでいっか」
スマホ「100メートル先を右です(ドヤ)」
──数日後、また同じ場所──
Aくん「あれ、この前も来たよね? まあいいや、ナビナビ」
…というのを延々と繰り返しているうちに、
Aくんの脳みそはつぶやきます。
「こいつ毎回ナビに丸投げだし、
もう道を覚える回路いらなくね?」
こうして、「思い出す力」より「すぐ検索する癖」のほうが強化されていく。
便利さの影で、自前の記憶と考える力がサビていくイメージです。
「メディア史」を知ると、今がちょっと怖くなる

著者は単に「インターネット怖い!」と叫んでいるわけではありません。
ソクラテスが「文字なんて使ったら人間は忘れっぽくなる」と嘆いた話から、
グーテンベルクの印刷革命、タイプライター、テレビ…と、
歴代メディアが人間の思考をどう変えてきたかを振り返りながら論じていきます。
その中で浮かび上がるのは、
- どのメディアも、最初は「人をバカにする」と叩かれた
- でも実際には、良い面と悪い面のトレードオフがある
- インターネットも同じ。ただし「スピードと刺激」がケタ違い
という事実。
つまり、
ネットは悪魔だ!今すぐ断線せよ!
という極端な話ではなく、
便利さに飛びつきすぎると、
じわじわ“深く考える力”を失うかもしれないよ
という、わりと現実的な警告なんですね。
じゃあどうすればいいの?に対する答え

ここまで読むと、きっとこう思うはずです。
「それはわかった。
で、私たちは具体的に何をすればいいの?」
著者の提案は、実はめちゃくちゃシンプルです。
- ネットから離れる時間を、あえて作る
- 長い文章を、紙や専用端末でじっくり読む習慣を戻す
- マルチタスク(ながら作業)を減らす

要するに、
「スマホを置いて、本を読め」
という、身も蓋もないけど超本質的な話。
もちろん、仕事でネットが欠かせない人も多いので、
24時間オフライン生活をしろ、という意味ではありません。
- 朝の30分だけは通知オフで読書タイム
- 通勤中のSNSを、週3日はKindleに置き換える
- 休日は“スマホを別の部屋に置いておくチャレンジ”
など、「自分の脳に投資する時間」を意識的に作ろう、という提案です。
“ネット断ち啓蒙書”ではなく、“付き合い方リセット本”

ここまで読むと、
「なんか説教くさい自己啓発書なのかな…」
と思われるかもしれませんが、安心してください。
著者自身もかなりのテクノロジーウォッチャーで、
決してネット憎しの原始回帰派ではありません。
むしろ、
- ITの歴史
- 脳科学の研究
- メディア論
- 自身のネット中毒経験
などを冷静に組み合わせて、
「ネット時代をどう賢く泳ぐか」を考えよう、と誘ってくれる一冊です。
日本語タイトルの「ネット・バカ」はちょっと煽り気味ですが(笑)、
原題の The Shallows(浅瀬)を知ると、著者の本当のメッセージは
「このままだと、思考が“浅瀬”のまま終わっちゃうよ。
たまには深いところまで潜ってみない?」
という、わりと優しい呼びかけだとわかります。
こんな人に『ネット・バカ』をおすすめしたい

最後に、この本が刺さりそうな人をざっくり挙げてみます。
- 長文記事や本を読む前に、ついSNSを見てしまう
- 「最近、集中力が続かない」と本気で感じている
- 仕事もプライベートも、1日中画面を見ている
- 子どもや部下の“スマホ依存”がちょっと心配
- テクノロジーと上手く付き合う「バランス感覚」を身につけたい
一つでも当てはまったなら、
『ネット・バカ』は、きっと今のあなたにとって“必要な不安”をくれる本です。
不安と言っても、ただビビらせるだけではなく、
「じゃあどう生きるか」を考えるきっかけになるタイプの不安。
読後には、おそらくスマホを手に取る前に
一拍おいて考えるクセがつくはずです。
最後に

スマホを置く5分から、あなたの脳の未来が変わるかもしれない
インターネットは、もはや生活インフラ。
「もうネットなしで生きることはできない」と感じる人も多いと思います。
でも、その“当たり前”を一度立ち止まって見直してみること。
自分の脳と、どう付き合っていくかを考えてみること。
『ネット・バカ』は、そのための良質な「一時停止ボタン」のような本です。

もしこの記事をここまで読んでくださったなら、
その集中力はまだまだ現役です。
大丈夫、間に合います。
このあと、いつものようにSNSを開く前に、
ちょっとだけ方向転換してみませんか。
スマホではなく、本棚へ。
画面ではなく、ページへ。
そしてページをめくりながら、
「自分の脳とネットの距離感」について、ゆっくり考えてみてください。
きっとその時間こそが、
あなたの「深読み力」を取り戻す、静かな一歩になるはずです。
